連日盛り上がっているサッカーのロシアワールドカップ 。
グループリーグから熱戦が続き、寝不足の方も多いと思います。
フランスの躍進を支えたFWのエムバペ選手はまだ19歳でした。
その爆発的なスピードは世界を驚かせ、フランスの試合日にはSNS上でもたびたび「はえ〜!」という声が聞かれました。
Twitterのホットワードにもよく登場した「エムバペ」という固有名詞。しかし、それと同時に「ムバッペ」という単語を目にしたことのある人もいたかもしれません。
実はこの「エムバペ」と「ムバッペ」。同一人物なのです。
どういうことなのでしょうか。
目次
エムバペ・ムバッペ論争
フランス代表のエムバペ選手は本名Kylian Sanmi Mbappé Lottin。フランスとカメルーンの国籍を有しています。
フランスのモナコやパリ・サンジェルマンという強豪クラブでプレーをしてきましたが、これまでヨーロッパのサッカーを報じるメディアでは主に「ムバッペ」という表記をされてきました。
これはMbappéという名前をローマ字読みしたものですね。
しかし、今回のワールドカップではテレビを始めとして「エムバペ」の表記が目立ちました。Mbappéの語頭を「エム」と読み、語尾も撥音「ッ」を入れずに「バペ」としています。
これまで「ムバッペ」に慣れ親しんできた人からは「違和感がある」などの声が続出。フランスの試合のたびにエムバペ・ムバッペ論争が巻き起こりました。
彼のウィキペディアには表記について以下のような注釈が付いています。
この記事の項目名には以下のような表記揺れがあります。
▪キリアン・エンバペ
▪キリアン・ムバッペ
▪キリアン・ムバペ
▪キリアン・ンバペ
ちなみに現地語読みだと「ェンバペ」「ェムバペ」に近い発音です。
スペルをローマ字読みするか、現地語読みに近づけるか。それによって各メディアの表記も異なり、若干混乱を招いています。
「エムバペ」派のメディア
エムバペと表記するメディアを探してみました。
今大会のワールドカップを放送したNHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビはそうですね。またスカパーも以前は「ムバッペ」でしたが現在はエムバペ表記です。
他には
また新聞社は一般紙、スポーツ紙問わずエムバペで固定されています。「ムバッペ」表記だったメディアもありましたが、ワールドカップを機に統一されたようです。
「ムバッペ」派のメディア
一方で「ムバッペ」読みを貫くメディアもあります。こちらはサッカーの専門性の高い媒体が多いですね。
どちらが正しいのかはわかりませんが、90年代に活躍したカメルーン代表FWエムボマ(MBOMA)はムボマと表記されることが少なかったことを考えると、エムバペで統一されてほしいですね。
何より混在しているとわかりにくい。
ワールドカップでサッカーに興味を持ってくれた人の関心をこのような形で削いでしまうのはもったいないと思います。
他には?表記のズレ
他にも海外選手のカナ表記で媒体によってズレがあります。細かいものもありますが、サッカー好きとしていろいろ見ていきます。
僕自身、サッカー専門メディアでも新聞社でも働いていたことがあります。
両者の事情も多少はわかるので、その辺りも含めながらお話ししていきます。
ブッフォン?ブフォン?
イタリア代表を長らく支えたGKのジャンルイジ・ブッフォン。
恐らく彼を知っているサッカーファンなら10人中10人が「ブッフォン」と表記するはずです。
でも、「ブフォン」と表記するところもあるんですね。
共同通信というのは各新聞社に包括的な記事を配信する通信社です。時事通信も似た体系を取っています。
共同通信の専門媒体はありませんが、共同が配信した記事を各新聞社はクレジットを載せるなどして使うことができるんですね。
このあたりはWikipediaを参照するとよくわかります。
正直なところ共同通信と契約している新聞社などメディアは共同さんなしでは存在できません。それくらい大きな意味を持っています。
一方で、共同通信は報道用の表記のルールを掲載した「記者ハンドブック」というものを刊行しています。
共同通信は絶対、とまではいいませんが、かなり大きな割合で各メディアの規範を規定しているんですね。
そこで問題になっているのが「共同通信社の表記と掲載メディア固有の表記のズレ」です。
一般紙もスポーツ紙もこれまでほぼ「ブッフォン」表記でしたが、この度の彼のパリ・サンジェルマン移籍報道では「ブフォン」となっていました。共同の配信表記が「ブフォン」なのでしょう。
一度「ブフォン」と表記してしまうと「ブッフォン」に戻したとしても「ブフォン」を貫いても、どこかもどかしい感覚が残ります。
グリーズマン?グリエズマン?
上記のエムバペ/ムバッペとフランス代表で共闘したFWのGriezmannはグリーズマン、グリエズマンと表記が分かれます。
グリエズマン派としては過去にサンケイスポーツやスポーツニッポンがヒットしたのですが、今夏のワールドカップからでしょうか、グリーズマン表記になっています。
GOAL.comも3月ごろまでは「グリエズマン」表記がありましたが、ワールドカップではグリーズマンになっていました。
今回のワールドカップでグリエズマンと表記しているメディアは見つかりませんでした。
グリーズマンに関しては表記が統一された例ということになりました。
ウィリアン?ビリアン?
ベスト8に終わったブラジルにはWillianがいます。
テレビを含めて多くのメディアではウィリアンと表記されていますが、一部新聞では「ビリアン」の表記が見られます。
スポーツニッポンはワールドカップからのようですが、日刊スポーツ、日経新聞はその前からですね。
朝日新聞や毎日新聞も今回のワールドカップでビリアンと表記していますがサンケイスポーツなどはウィリアンと表記している記事がありました。
こちらも「ウィリアン」が圧倒的に優勢のため、「ビリアン」には少し違和感があります。
ロナウド?ロナルド?
最も有名なサッカー選手の一人である、ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド(Ronaldo)も表記が揺れる対象です。
日刊スポーツは昔から「ロナルド」と表記してきました。
恐らく共同通信社の表記がロナルドに統一されたのでしょう。今回のワールドカップでは全国紙の一般紙がロナルドと表記しましたが、スポーツ紙はニッカンを除き「ロナウド」と表しました。
このあたりは各社が独自にやっている表記だと思います。
個人的には「ロナウド」一択と思うのですがどうでしょうか。
トーレスがトレスに、カバーニがカバニに
サガン鳥栖への移籍が決まり、マーケットを賑わせたスペインのフェルナンド・トーレス(Torres)も新聞によってはフェルナンドトレスと一息に表記されます。
主に日刊スポーツや朝日新聞の系列が多い気がしていましたが、読売新聞も使っていたので共同通信表記のコンセンサスとしてはこちらなのかもしれません。
スポーツニッポンはフェルナンド・トーレス。新聞社ではないサッカーメディアも一様に同様です。
ワールドカップに出場したウルグアイのCavaniは「カバーニ」が一般的でしたが、今回のワールドカップでは「カバニ」勢力が増えてきました。
「カバーニ」表記は新聞ではサンケイスポーツくらいで、他は軒並み「カバニ」。
一方で雑誌やウェブメディアは「カバーニ」で統一されています。テレビもカバーニでしたね。
スナイダーとは?
オランダ代表で活躍したMFのスナイデル(Sneijder)。
彼も「スナイダー」という表記を主に新聞でされることがありました。
「スナイダー」で検索すると日刊スポーツやスポーツニッポン、地方紙などが出てきました。
こちらも新聞特有の表記ルールでしょうかね。
一方でサンケイスポーツ、朝日新聞などは「スナイデル」。「スナイダー」に違和感を感じた読者も多かったと思いますが、やはり新聞社の中でも割れていました。
日本人でも…新聞表記の落とし穴
ここまで外国人選手を取り上げてきました。
しかし、表記の揺れがあるのは外国人だけじゃないんです。
日本人選手の漢字も新聞社によっては使えないところがあるんですね。
どういうことなのか、例を挙げてみてみましょう。
澤と沢。一番わかりやすい表記の揺れ
「澤」です。これはよく議題に上ります。
浦和レッズに長澤和輝という選手がいます。
昨秋にはハリルホジッチ体制で初めて代表にも選ばれました。その際に新聞では「長沢」という表記だったんですね。
Jリーグ公式や放送、雑誌などでは「長澤」です。登録名も長澤和輝です。
結論から言うと、新聞社では共同通信の表記ルールで「沢」も「澤」も「沢」で統一しましょうというものがあるみたいなんですね。
「新聞と広告の向こう側」様でこの件は丁寧に説明されています。
常用漢字に「澤」が入っていないのも意外ですが、膨大な情報を扱う新聞社において長サワさんは長澤なのか長沢なのか、その使い分けを逐一チェックしていると誤字の原因になるのも一因と聞いたことがあります。
事実、上で挙げた浦和の長澤の相手のガンバ大阪には長沢駿という選手がいまして、2人のサワが逆になっては駄目ということ。
個人的には一緒くたにするのも駄目だと思うんですが…これだけ画数が違うと違和感がありますよね。
「新聞と広告の向こう側」様では元なでしこジャパンのサワさんを「沢穂希」と書いてありますが、実際近年は「澤穂希」と表記する新聞も多く見ます。
その一方で現なでしこジャパンの菅澤選手は菅沢で変わりませんでした。
長澤まさみさんは芸能人なので、ということで書いてありましたが「澤」の使い分けは難しいですね…。中澤佑二選手、野球の澤村拓一投手などは新聞の一面にデカデカと名前が載ることが多かったので疑問に思うことも多かったです。
他にも齋藤学→斎藤学、森﨑和幸→森崎和幸など常用漢字が使えないケースがあります。
その中でも「澤」は特に差異が目立ちました。
言葉は記号です。記号というものは共通認識だからこそ記号なわけです。口に出して発音されるときの違いはあれど、表記される文字は共通であってほしいですよね。
全てのメディアで統一の表記がなされる。そんな集約をする機関があってもいいのかもしれませんね。